高齢者のIT利用特性データベース

キーの特性と入力しやすさ

■ 操作適合性実験

■計測目的と計測内容

IT機器には必ずといってよいほどキーが使用されているが、そのキーの形状や配置、動作はデザイナーの試行錯誤で決められることが多い。 IT機器に使用されているキーの形状、配置、動作特性と、人間の指先の力、指先の感覚、指先の安定性(震えの有無)との関係を明らかにすることを目的とした。 被験者は計36名である。

■計測手順

以下の基本属性を測定した。

1)指先の大きさ

利き手人差し指第1遠位より先の指腹にスタンプインキをつけ、機器のボタンを押す程度の圧力で、方眼紙に押しつけ、指紋の縦・横の寸法を測定・記録した。

2)指先の感覚

①痛覚 利き手人差し指腹のスタンプインキのついている部位の数カ所を痛覚計の針で刺激し痛みを感じた部位と圧力(g/㎠)を記録した。

②触覚 利き手人差し指腹に触覚計を当て、2点に触覚を感じた時の最小目盛を記録した。

3)指先の安定度

①概要 フェップル式安定度検査器により、手腕、指の動揺度を測定した。

②方法 フェップル式安定度検査器の各試験孔の左からスタートして右端に到達するまでの時間と接触回数を3タイプの溝に関して計測、記録した。

1回目 横 2回目 カーブ 3回目 クランク

4)指先の力

①概要 ピンチ力測定器により、指先の物をつまむ力を測定した。

②方法 労研式ピンチ力測定器により親指と人指し指、中指、薬指、小指の物をつまむ力を測定した。

5)巧緻性など

①概要

鏡映描写器による手指動作の巧緻性及びその学習能力を測定した。また平成9年度に行われた「作業域・巧緻性を含む操作関連動作についての実験計測」で使用したダイヤル、スライドバー、押しボタンによる高さ合わせ装置による巧緻性の計測を行った。

②方法

・鏡映描写器実験 鏡に映る星形を時計回り1回、逆時計回り1回なぞらせ、スタートからゴールまでの時間および逸脱回数を計測した。

・高さ合わせ実験 5つの高さ目標に対して、ダイヤル、スライドバー、押しボタンを操作して、バーを合わせるまでの時間と経過を計測した。

■計測条件・環境

操作性測定

(1)キー形状・配置評価(9キー)実験

12種のスイッチボードにつき、それぞれランダムに点灯するLEDの指示によって、スイッチを押させ、反応時間・誤答率を測定した。

①1回目

押下制限時間:500msec 判定有効時間:500mxec スリープ時間:500mxec

②2回目

押下制限時間:700msec 判定有効時間:700mxec スリープ時間:500mxec *いづれも1クール10回、回数3クール

(2)キー間隔評価(3キー)実験

1回目 ピッチ6.5㎜で縦置き、横置き各1クール10回押させ、反応時間、誤操作率を測定。

2回目 ピッチ6㎜で縦置き、横置き各1クール10回押させ、反応時間、誤操作率を測定。

(3)動作特性手動評価実験

独自に制作した手動型押しボタン圧測定器を使って、各種スイッチを押させ、押し圧とストロークをデータとして収録し、高齢者と若年者の違い、同じスイッチを機械で押した場合の違いを検証した。

動作特性計測器の概要書

実験風景写真

■計測機器

・ピンチ力計 ・スピアマン式触覚計 ・痛覚計 ・フェップル式安定度検査器 ・鏡映描写器 ・動作特性自動計測器 ・動作特性手動計測器

■計測結果

キーの動作特性

(1)自動計測による動作特性

タクト、プッシュ、メンプレンという異なる形式のキーの動作特性を自動評価装置で計測した結果、タクトスイッチには典型的なクリック特性が観察された。ただし、2種類のタクトスイッチの間には微妙な違いがあり、NO1の方がクリック特性が明確で、押下圧が高く、行きと帰りのヒステリシスも大きい。一方メンブレンはストロークが各々0.32mm、0.11mmと小さい。ただし、NO2は わずかながらクリックに似た特性を示している。プッシュスイッチは両者の中間の特性を持っていた。

(2)人が好む動作特性

この5つのキーを人が押した時の操作感を評価した結果、タクトスイッチが上位一位、二位を占めている。続いてプッシュスイッチが好ましく、メンプレンはどちらも評価が低かった。タクトはある程度のストロークとクリック感がキーを押したという感覚を人に与えている。反面メンプレンは「押した感じがしない」という評価となった。

(3)キー間隔

年齢群別に見ると、高齢者と若年者はほぼ同じ傾向を示し、中年者は全く異なる傾向を示した。年齢だけでは説明できないことを示唆している。そこで被験者を一度でも間違えたエラー群と一度も間違わない非エラー群とに分けて分析したところ、エラー群は痛覚数が少なかった。仮説として指先が鈍くなると間違いやすいことが考えられる。このことは、キーの形状や表面状態に工夫を加えることにより、キー間隔が狭くなってもエラーを生じにくくできる可能性を示している。

■参考

高齢者のIT利用特性データベース構築等基盤設備整備事業 (抜粋:認知・知覚・運動適合性に関する計測及び指標化手法の確立)

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