高齢者のIT利用特性データベース

様々な入力デバイスと操作性

■ 音声入力1 音声でおこなう文字入力作業が短期記憶課題の再生率に及ぼす影響に関する実験

■計測目的と計測内容

高齢者では、身体機能,認知機能などにおいて加齢の影響による機能低下が考えられ、若年者と同様の入力インターフェイスの使用が適切であるかどうかを明らかにすることを目的として、さまざまな入力デバイスを用いた実験を行った。 コンピュータのスキルが乏しい中高年、高齢者にとって音声入力の方が、文字入力ならびに操作支援に優れていることが考えられる。しかし、音声入力の問題点として、若年者を対象とした実験において、短期記憶を要する作業には不向きであることが示唆されている。生体諸機能、記憶機能が若年者群よりも低下している中高年、高齢者にとって、発話と短期記憶の聴覚的干渉による入力効率の低下はより顕著になることが考えられる。本研究では高齢者が音声入力を用いた場合の発話と短期記憶の聴覚的干渉による入力効率の低下などの問題を明らかにすることを目的とした。 被験者は、若年者群、中高年者群、高齢者群で各16名、11名、17名の計44名であった。

■計測手順

直前に音声入力による入力作業が行われた場合、直前の入力作業における聴覚的情報が短期記憶に干渉し、直後に行われる記憶-再生パフォーマンスが低下することを検討するための実験を行った。 主課題は2分間のワープロ作業とし新聞記事をキー(もしくは音声)で入力させた。音声から始める人とキーから始める人は半々とした。続いて、10桁の無意味数字列の記憶-再生課題をおこなった。この時、リハーサル時間は10秒とし、この間は積極的にリハーサルをおこなうように指示した。10秒経過後、無意味数字列の入力画面が現れ、被験者は10秒前に提示された10桁の無意味数字列を提示された順番にキーボードを用いて入力させた。

■計測条件・環境

計測装置仕様

・コンピュータ(OPTIPLEX GX150-1200SF(2K),DELL)

CPU:PentiumⅢ 1200MHz RAM:128MB 2次キャッシュ:256KB HDD:40.0GB CD-RW:読込24倍速/書込8倍速/書換4倍速 FDD:3.5”×1 キーボード:109型キーボード VRAM:8MB 解像度:1600×1200ドット(256色) 外形寸法(幅×高さ×奥行[mm]):319.0×90.0×354.0

・ディスプレイ(17”マルチスキャンディスプレイ,MITSUBISHI)

サイズ:17” 最大解像度:1280×1024 ピッチ:0.25mm 水平/垂直周波数:30~70kHz/50~125Hz 入力信号:RGBアナログ 入力端子:ミニD-sub15ピン外形寸法:(幅×高さ×奥行[mm]):410.0×406.0×425.0

・音声認識装置

Voice一太郎Ver11(ジャストシステム製)に付属のViaVoiceV8Pro日本語版for Windowsを使用した。ViaVoiceを作動させるためには、256KのL2キャッシュ付きPentiumプロセッサ333MHz以上のプロセッサを備えておく必要がある。OSは、Windows2000を使用した。付属のマイクロフォン接続後に、自身の声を登録する「エンロール」作業を実施し、エンロール終了後に音声入力を実施した。本研究では、まず簡易に声の特徴をコンピュータに記憶させるクイックエンロールを実施し、その後本格的なエンロール作業を実施して、認識率が高まるようにした。

■計測結果

いずれの年齢群でも、音声入力を用いた場合、キー入力と比較して平均入力到達文字数は増加した。若年者群の音声入力作業量/キー入力作業量は約3、中高年者群と高齢者群の同比率は約6で、音声入力を使用することによって、中高年者と高齢者の入力効率がアップすることが明らかになった。キー入力、音声入力ともに若年者と比較して中高年者と高齢者の平均正答個数は少なく、記憶容量が少ないことがわかる。若年者では音声入力時には発話と短期記憶との間の順向的干渉が働き、記憶-再生課題の正答率は低下していた。高齢者では加齢による記憶容量の低下が大きく、若年者のような発話と短期記憶との間の順向的干渉によると考えられるキー入力時に比べた音声入力時の記憶-再生課題の正答率の低下は観察されなかった。記憶-再生課題の再生にかかる入力時間は加齢に伴い延長する傾向がみられた。またいずれの年齢群でもキー入力と比較して音声入力の方が再生にかかる時間は約5%程度長くなった。入力方式の差異が負担感に及ぼす影響についてみてみると、キー入力と比較して音声入力を用いた場合、不満や努力は少なくてすむと判断する傾向がみられた。

以上の結果をまとめると、若年者に比べて高齢者では、音声入力によって作業効率がキー入力よりも高くなり、順向的な聴覚的干渉も生じにくいことが明らかになった。また、高齢者と中高年者では、音声入力時の精神的な負担の面でも、若年者に比して音声入力に利点があることが示された。

■参考

高齢者のIT利用特性データベース構築等基盤設備整備事業 (抜粋:入力デバイスの利用に関する問題点・音声入力)

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